低音(2013年9月お題SS)★お色気注意★

BL♂UNION

学生先輩後輩もの。
はれるやんさん幹事のお題SS(2013年9月)。
お題は「先輩」「後悔」「音楽」。
約4000字。




「え、陸くんは打ち上げ来ないのか?」
「はい拓人先輩、おれはちょっと今から用事があって」
 今日の軽音楽部の定期ライブでも、陸の憧れの拓人は多彩なバンドでその素敵なキーボード演奏を見せてくれた。
「あの、部室の鍵だけ貸して頂けますか?」
 陸は言いにくそうにその長身を見上げる。暗闇でもこの美貌はなんと映えることだろう。
「まさかお前、面倒な雑用を言いつけられてるんじゃないか?」
 拓人の形のいい眉がつり上がる。陸は慌てて「いえ、ただの用事ですっ」と弁解した。
「それから……」
「ん?」
 心臓の鼓動が高鳴る。真っ直ぐに拓人の目を見られない。
「打ち上げの後、部室に来て頂けますか? できたら一人で」
「一人?」
 拓人はその上品な口元に優しい笑みを浮かべる。
「陸くんが何を企んでるか、楽しみにしてるよ」
 天使のような笑顔と共に頭を撫でられて、陸は頬が熱くなるのを感じた。
 鍵を受け取った陸はそのまま、すぐ近くの下宿へと走り出す。

「陸先輩!」
「げっ」
 陸はそのうっとうしい声から逃げようとしたが、身長だけでなく足の長さもけた違いらしく、すぐに追いつかれてしまう。
「夕樹……」
「何でオレを無視するんですかっ」
「そっちこそ何で付いて来るんだっ。お前もみんなと一緒に打ち上げに行って来いって」
「先輩がいない打ち上げなんて、つまらないですからっ」
 大真面目に言ってくるおかしな後輩に、突っ込む気さえ失せる。
 入学式ライブでの拓人の名演奏に衝撃を受けて、キーボーディスト志望として入部したものの、楽譜通りに弾くこともアドリブすることもままならない陸をほしがるバンドはほとんどいなかった。今日も、夕樹がヴォーカルを務めるロックバンドの後ろで、ほとんど無意味なストリングスの音を奏でさせられただけで、出番は終わってしまったのだ。
 そんな自分に、夕樹は入部直後からやたらと絡んでくる。後輩に慕われるのに悪い気はしないが、あまりに度が過ぎる場合は別だ。
「何か用事があるなら、オレが手伝いますよっ」
「いや、要らないからっ。打ち上げ、楽しんで来いよ!」
 適当に作った笑顔をぱっと振りまいて、全速力で駆け出す。

「ううっ……」
 玄関からお目当ての荷物を持ち出して、まだ数十メートルしか進めていない。腕と肩から全身に広がる痛みを感じる。
 今日は憧れの拓人の誕生日だ。両手で抱えた大きな段ボールには、陸がこの一年のバイト代で買った贈り物が入っている。外装の文字でばればれだ。
 あの繊細な芸術家肌の、音楽のために生まれて来たような拓人が、下宿にオーディオを持っていないというのが、陸には驚きだった。拓人の部屋には、コンポもスピーカーもラジカセもテレビもない。今流行りの、大量の楽曲を持ち歩けるアイマンやらウォークポッドやらも持っていなくて、携帯さえガラケーの拓人は、実家のおフルだというノートパソコンでしか音楽を聴いたことがないらしかった。あの天才キーボーディストの拓人に、そんなことがあってはならない、陸はそう思うのだった。
 陸が購入したのは、従兄が働いている中小電器店で特別に買わせてもらった、古い在庫のCDラジカセだった。CDとカセットとラジオが一体になった自称「オールインワン」。怖ろしく時代遅れの代物ではあるが、陸がこれを選んだのは決して予算だけが理由ではない。
「低音が足りない」
 それが拓人の口癖だった。パソコンにイヤホンを繋いで音楽を聴いている時も、定期ライブ中にミキサーで音を調整している時も。どうやら拓人が「低音」にこだわりがあると知った陸は、「史上最大の低音出力」を誇り、その記録が発売から十年以上経った今でも破られていないという、「スーパーウルトラベース・オールインワン・ワンタッチ・レボリューションラジカセ」という名ラジカセを購入したのだ。発売から年月が経ち過ぎて、メーカーの保証期間は終わってしまっているが、壊れたら従兄の知り合いが修理してくれるらしい。
 しかし、とにかく重い。
 コンパクト化のこの時代。一世代前のCDラジカセは、やたらと大きく、やたらと重かった。小柄な陸の体力では、なかなか部室にたどり着くことができない。

「陸先輩っ!」
「げげっ」
 夕樹がひどく慌てた様子で駆け寄ってくる。
「な、なんでそこにいるんだっ」
 思わずその場に段ボールを下ろしてしまう。
「ずっと探してたんですよっ。そんなでかいの、どうしたんですかっ」
 そう言いながら、ためらいなくその段ボールを軽々と持ち上げて、そのまま歩き出してしまう。
「お、おいっ、お前が持たなくていいってっ」
「部室に運ぶんですよね?」
 夕樹はさわやかに陸の言葉を無視しながら涼しい顔で歩き続ける。
「いや、だからおれが運ぶからっ」
「先輩の華奢な身体で、こんなでかいのを一人で持っちゃダメですよ」
 振り返る夕樹は実に余裕の表情だった。
「万が一手首折ったり突き指したりしたら、あの素敵なキーボード演奏が聴けなくなっちゃうじゃないですかっ」
 そう言ってこちらを真っ直ぐに見つめてくる顔がやけに真剣で、陸は面食らってしまう。
「じゃ、二人でっ……」
「でかいオレなら一人で大丈夫ですから」
 ぴしゃりと返されて、うきうきと前進し続ける夕樹の後を、陸はとぼとぼと付いて行くことしかできない。

「夕樹、ありがと……」
 そのまま部室まで来てしまった。さすがに礼を言わずにはいられない。
「あの、喜んでもらえたらうれしいですっ」
 素直に礼を言った陸に戸惑ったのか、正面奥の机に段ボールを置いた夕樹は、顔を真っ赤にしながら頭を下げてくる。
「拓人先輩への、プレゼントですよねっ」
「はっ?」
 いきなり図星を突かれて陸は驚愕する。
「ばればれですよ。何でオレじゃなくて、あの人ばかりなんですかっ」
「はぁっ……?」
 意味不明のことを言われて聞き返そうと思ったところで、部室のドアをノックする音が聞こえてきた。
「わっ、来たっ。夕樹、お前は帰れよっ」
「えっ、そんなっ!」
「先輩の命令だっ」
 ぴしゃりと言い切ってから、陸はドアの方まで走る。
「やあ、陸くんっ」
「わっ」
 いきなり両肩にぬくっと手を置かれて、陸はおかしな悲鳴を上げてしまう。
「待たせてごめんね」
「いえ、ちょうどよかったですっ」
 異常に来るのが早いなと思いつつ、何とか間に合ったことにほっとする。
「あの、先輩……」
 両肩に手を置かれたまま、陸は懸命に勇気を振り絞る。
「お、おれからの、誕生日プレゼントですっ!」
「えっ?」
 言うなり顔を火照らせたまま、拓人の腕を机の前まで引っ張る。夕樹はいつの間にか消えてくれたらしい。
「おお、このラジカセ!」
 拓人は満面の笑みを浮かべている。
「これ、もうどこにも売っていないかと……」
 感動したように外装の文字を眺める拓人に、陸は得意気に説明する。
「従兄の電器店が、特別に売ってくれたんですっ。先輩、これでいっぱい音楽聴いて下さいっ」
「か、感動だっ!」
「ぎゃっ」
 いきなりぎゅっと抱きしめられて悲鳴を上げつつも、うれしい陸だ。
「よし、早速試聴タイムだな」
「え?」
「まずはこの防音完璧な部室で、その低音を堪能させてもらうよっ」
 言うなり陸の身体から手を離した拓人が、段ボールを開けて中身を取り出す。陸はどきどきした。この繊細なキーボーディストは、どんな音楽を今から聴いてくれるのだろう。ロックだろうか、ジャズだろうか、クラシックだろうか。
「さてと、じゃ、俺のお気に入りの一枚を」
 言うなり、左の小机の引き出しから、真っ黒のジャケットのCDを取り出した。ライブの転換のBGM用に持って来ていたのかも知れない。
「陸くんは座ってね」
 陸はラジカセの置かれた机の前の回転椅子に座らされた。
「じゃ、スタート!」
「――ぎゃあああっ!」
 瞬間陸は金切り声を上げた。耳を塞いで反射的に立ち上がりそうになる所を、拓人の温かい手がそれとなく押さえつけていて逃げられない。
 その轟音は、オルタナティヴ・プログレッシヴ・ヘヴィ・デスメタルだった。
 体内の血液を全て吐き出したような超絶デス声ヴォーカル、工事現場のブルドーザーが爆発したようなギター音、銭湯に閉じ込められた数百匹のライオンが一度にうなっているようなベース音、リズムがめちゃくちゃでただのフルボッコにしか聞こえないドラム音。
 あまりの重低音に、座っている椅子がものすごい振動を起こしている。お尻越しに伝わって来るその重低音が、陸の下半身をしびれさせる。
「ひゃぁぁ……っ」
 もはや声を出すことさえままならない陸の両肩を、拓人は後ろから優しく包み込む。
「人生最高の贈り物だよ」
 耳元で囁かれているようだが、陸には遥か遠くの声にしか聞こえない。
「あんんっっ……!」
 瞬間、陸の喉から間抜けな悲鳴が漏れる。太ももを這い上がってくる、ぬるっとした怖ろしい物体の感触が来たのだ。たまらず暴れようとする足を、しっかりと押さえ込まれている。
「ひ、ひぇぇっっ……!」
 うつろな目で視線を落とすと、なんと机の下には、いなくなったはずの夕樹がその長身を丸めて隠れていた。
「ゆ、ゆゆぅぅっっ……!」
「ん、なんだって?」
 余裕たっぷりの艶めかしい声を耳元で響かせる拓人は、足下の怖ろしい物体に気付いていないようだった。
「陸くん、今の顔、すごく色っぽい……」
 違う、そんなんじゃない、そう答えたいのに、目の前の凶器から放たれる轟音と、太もも付近をなで回す怖ろしい物体のせいで、まともな言葉を発することができない。
「やぁ……やめぇぇっっ……!」
「愛してる」
 突発的に耳元で響いたその言葉を、もはや今の陸は理解できなかった。横を向かされて、頬から唇まで柔らかく湿ったものが滑っていくのを、まるで人ごとのようにしか思えない。
「ん……あぁぁっっ……!」
 いつの間にか自分のジーンズのファスナーに、他人の手がかけられていた。とっくに熱くなってしまった自身を感じながら、陸は「先輩!」という叫び声を下から聞いた気がした。
 陸は、全てを後悔した。

(了)




こんにちは、作者の牛野若丸です。
はれるやんさんが幹事を務めるお題SS、今回のテーマは「先輩」「後悔」「音楽」でした。
4000字以内ということで、ジャスト4000字!
記念すべき5作目のSSですが、これまでで最もアバンギャルドな作品となりました(笑)。
こんなのBLじゃない!と思った人、ごめんなさい><w
今までの路線と違ってがっかりした人も(泣)。
また次回も頑張ります♪
ではでは、またどこかでお会いしましょう。

牛野若丸

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