賞味期限切れ(2013年11月お題SS)★お色気注意★

BL♂UNION

高校生幼なじみもの。
サウさん幹事のお題SS(2013年11月)。
お題は「荒れる」「期限」「吐息」。
約3200字。




 教室で独りぼっち。窓の外を見つめる。
 まだ五時なのに、秋の夕空は真っ暗だ。
 大好きな修平が戻って来るのを、僕はずっと待っていた。鞄は、ここにある。
「生徒会で遅くなるから、水貴は先に帰ってて」
 修平はそう言っていたけど、どうしても今日話したいんだ。もう、限界だから。
 ポケットからスマホを取り出して、フロントカメラで自分を映し出してみる。撮りはしない。
 あの頃に、戻りたい。
 天使のようだと言われた、小学校時代。美少年と言われてちやほやされた、中学校時代。
「修平の好きな人は?」って聞いて、「お前」と即答されて爆笑した日のことが懐かしい。
 男前で背の高い修平は、いつだってお兄さんのように優しかった。今だって、表向きは優しい。
 変わってしまった僕が、いけないんだ。
 他に何の取り柄もない中途半端な「美少年」の賞味期限は、すごく早かった。
 無駄に存在感のある、ダサい眼鏡。修平の家でテレビゲームをいっぱいやった罰が当たったんだろうか。今は裸眼だと、ほとんど何も見えない。何度もコンタクトに変えようとしたけど、あんな怖ろしい異物を目に入れ込むなんて真似は、臆病な僕にはとてもできなかった。
 この、ぱさぱさに荒れ果てた顔。修平と遊びながらポテチを食べまくったのがいけなかったんだろうか。父さんのようにぱさついた、潤いゼロの肌は治らない。隠れて使っている姉ちゃんの美容液も、焼け石に水。
 外見なんて、どうでもいい。人間は、中身。そんなこと、誰でも知っているけど。
 修平は、「美少年」の僕が好きだったんだ。高校入学後しばらくしてから、修平は急激によそよそしくなった。
 もちろん、その優しさは変わらない。登下校はほとんど一緒だし、学校でもドジな僕にいろいろと世話を焼いてくれる。
 だけど、本当は心の中ではうっとうしく思っているに違いない。
 気付いたのは、いつだろう。僕が修平の身体にちょっと触れただけで、ひどく嫌そうな顔をされるようになってしまったのは。
 ちょっと話しかけようとして、肩に手を置いただけで、修平は表情を歪めると、さっとその場を立ち去ってしまう。
 修平は、僕にちょっと触られるのがうっとうしいぐらいに、僕のことを本当は邪魔に思っているんだ。
 悩んで、悩んで、悩み抜いて。僕の考えが被害妄想だったらって、何度も願ったけど。
 毎日毎日、修平が僕をうっとうしがっている証拠がどんどん積み重なっていくのに、もう僕は耐えられなかった。
 だから、これで終わりにするんだ。
「――水貴、まだ帰ってなかったのか」
 修平は決まり悪そうに、教卓の横にたたずんでいる僕の方へと歩み寄ってくる。
「随分待っただろ? ごめんな」
 僕に目線を合わせて、優しい声で言ってくる。だけど僕は、言わなくちゃいけない。
「話があるんだ」
「えっ?」
 妙に震えた声を出してしまった僕に、修平はちょっと驚いたような声を出す。
「修平、もう無理しなくていいんだよ」
「どういう意味だ?」
「友達なんて、どんどん変わるものだから」
 修平の整った瞳をじっと見つめて、僕は言った。
「修平が僕に、いつまでも昔みたいに接しようとして、無理してるのは分かってるんだ。もう友達、やめていいよ」
「な、何を言い出すんだっ……?」
 その慌てた声が、ちょっとだけ腹立たしい。
「修平、こんなに劣化しちゃった僕に、失望したんだろ? 僕はもう、賞味期限切れだから。修平が好きでいてくれた僕は、もういないよ」
「み、水貴っ……」
 肩に差し伸べられようとする修平の手を、僕は静かに振り払う。
「無理して優しくなんか、してくれなくていいから」
 冷静に話しているつもりなのに、胸の奥がきゅうっと痛んで、目に涙がにじんできた。悲しみが吹き荒れる。
「僕がちょっと触れようとするだけで、修平、逃げちゃうだろ……? すっごく、嫌な顔、するじゃないか……。僕、ずっとずっと、悲しくてたまらなかったよっ。修平は僕のこと、うっとうしがってるんだ、って……!」
「ま、待てよっ……」
「そりゃ、こんなダサい眼鏡かけたぱさぱさの顔、昔とは別人だもんねっ……!」
 僕はその腹立たしい眼鏡を力任せに投げ捨てる。
 視力の悪さに大粒の涙も手伝って、周りの様子なんか、何も見えない。大好きな修平を失った僕なんて、お先真っ暗だから。
「もう、無理しないでよっ……!」
「水貴っ……!」
「わっっ……」
 悲痛な叫び声が耳元で響いたかと思うと、視界が一気に真っ暗になった。全身が、包み込まれている。
「水貴、泣かないでくれっっ……」
 ひどく動揺した声と共に、僕は修平の両腕にしっかりと抱きしめられていた。
 お情けの抱擁なんか要らない。必死に逃げようとするのに、修平の力強い腕は放してくれない。
「放してよっっ……!」
「水貴、悪かったっ……!」
 懸命に謝ってくれているみたいだけど、もう僕は修平の本当の気持ちを知っているんだから。
 がむしゃらにもがこうとする僕を、修平は温かい腕ですっぽりと包み込んで、逃げ道を閉ざしてしまう。
「っっ……!」
 突如唇に押し当てられた、柔らかくて温かいものが何なのか、すぐには分からなかった。
「んんっっ……!」
 こじ開けられた口内に何かが押し入って来て、僕の歯列を一気になぞっていく。
 押し寄せてきた快感とくすぐったさに、足が震えて立っていられなくなる。
 倒れそうになる僕を、修平は力強く支えてくれていた。くちゅっ、くちゅっ、と音を立てて、僕の口内の全てが吸われていく感覚がする。
 僕は、修平に、キスをされていた。
 頭がぼうっとしてきて、そのまま意識を失いそうになった所で、修平の唇はそっと離れていく。修平は、ごほごほと咳き込む僕の身体を軽々と持ち上げて、教卓の上に座らせた。
「しゅ、修平っっ……?」
 いきなりの出来事に、何と言ったらいいか分からない。裸眼の、涙でぐちゃぐちゃの視界では、修平の表情が全然見えなかった。
「水貴……」
 温かい吐息が、耳元に吹きかかる。優しくささやく声が聞こえた。
「俺は、お前のことが、好きなんだよ……」
「えっ……?」
 どうして……? そんなの、信じられない。だって修平は、僕のことを避けていたから。
「嘘だよっ……そんなの……僕からしょっちゅう、逃げてたくせにっっ……」
「そのことは、本当に悪かったよ……あれは、俺のせいなんだ……」
 耳元で聞き慣れた言葉がこだまする度に、僕の心臓はどきどきと高鳴ってしまう。
「ど、どういう意味だよ……?」
「水貴……お前はずっと、可愛いままだよ……賞味期限切れなのは、俺だ。変わっちゃったのは、俺なんだ……。お前に、合わす顔がない……」
「えっっ……?」
 何も見えないせいか、その小さな声がひどく頼りなく聞こえてしまう。
「お前とは……親友のつもりだったんだ……水貴のことは……親友として好きなんだって、自分に言い聞かせていたのに……高校に入った辺りから、俺は欲情するようになってしまって……」
 修平の声は、僕みたいに震えていた。
「お前に触れられる度に、俺はその場から逃げ出すしかなかったんだ……」
「な、なんだよそれ……なんでだよ……?」
「水貴、俺の言う意味が……分からないのか……?」
「分からないっ……」
 いきなりの告白と共に紡ぎ出された、修平の言葉の意味を懸命に考えようとしても、僕を避けた理由は分からない。
「俺が……水貴から逃げて……どこに行っていたのか、ってことだよ……」
 ひどく恥ずかしそうな声と共に、修平の吐息が僕の首筋にかかる。
「わっっ……」
 僕はひょいっと、座らせられていた教卓から地上に着地させられた。
「水貴っっ……!」
 喉の奥から漏れるような叫び声と共に、僕はその場に押し倒されていた。
「水貴っ……」
 曇った視界では何も分からないけど、耳元に吹きかかる温かい吐息が、こんな非常事態でも僕を安心させてくれる。
「俺が行っていたのは……その……トイレなんだっっ……」
「へっっ……?」
 ぎゅっと抱きしめられる僕の太ももには、制服のズボン越しに、硬いものが当たっていた。

(了)




こんにちは、作者の牛野若丸です。
サウさんが幹事を務めるお題SS、今回のテーマは「荒れる」「期限」「吐息」でした。
いつもは4000字ぎりぎりまで書くのですが、今回はエッセンスを絞って約3200字という結果に。
普段のSSは小話的にダイジェストでまとめるのですが、本作は書きたいシーンを切り取ったような感じになりました。
まあ、いつもの牛若だったかも知れませんが(笑)。
少しでも温かい気持ちになって頂けたらうれしいです。
ではでは、またどこかでお会いしましょう。

牛野若丸

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