幸せな幽霊(2014年1月お題SS)

BL♂UNION

高校生幼なじみもの。
倉田真迂さん幹事のお題SS(2014年1月)。
お題は「寒波」「裏路地」「夢のなか」。
約3400字。




 オレは、死んでいる。
 だけど、とっても幸せなんだ。
 いつまでもこの裏路地付近を幽霊としてさまよっているオレは、たぶん成仏していないんだと思う。だけど幽霊って、結構楽しいものなんだぞ。
 ずっと、夢のなかにいるようなこの不思議な感覚は、まさに幸せそのものだ。
 だって、大好きな学くんを、堂々とストーキングできるんだからな。

 オレがスイートシックスティーンで短い生涯を終えたのは、一年生も終わりに近付いてきた一月のことだった。
 いつからだろう――隣近所に住む一歳年上の幼なじみの学くんに、胸がときめくようになってしまったのは。
 学くんの家は、間に裏路地を挟んだ小さな交差点の向こう側にあって、小さい頃のオレはよく遊びに行ったものだ。
 こんな田舎なのに、東京から半日かけてわざわざスカウトマンがやって来るぐらいに、学くんの容姿は昔から整っていた。幼児体型から未だに抜け出せない、小柄でガキっぽい顔のオレとは違って、学くんは穏やかな切れ長の目が印象的な大人びた顔で、すらりと背の高い素敵な人だった。
 バカで間抜けなオレにいつも優しくしてくれる学くんは、ずっとオレの憧れだったんだ。
 もちろん、男が男にこんな感情を抱くのはちょっとヘンってことぐらいは分かっていたから、長い長い片想いだったけどな。
 さすがに高校生にもなると、毎日一緒に登校なんてことはできなくなってしまった。だけどオレは学くんのことが大好きだったから、いつも裏路地に隠れて学くんが現れるのを待っていて、後ろからストーキング、じゃなくて見守るっていうのがささやかな日課だったんだ。
 ――オレは死んじゃったけど、すっごく満足しているぞ。

 その日は、この田舎町にも大寒波が押し寄せてきていて、うっかり防寒着を学校に置いてきてしまったオレは、寒さに震えながら学くんを待っていた。
 手袋も防寒着のポケットに入れたままだったから、オレは長袖のカッターシャツの上からブレザーを羽織るだけの、場違いな春先ルックだった。両手を擦り合わせながら、手のひらに何度も吐息を吹きかけて、その異常な寒さに耐える。
 人通りのほとんどない裏路地は、太陽が全然当たらないせいかどんよりとしていて、ぼろぼろの電信柱には氷柱が張っていた。
 あまりにも寒いと、最初は手が痛くなったりするんだけど、しばらくするとどうでもよくなってきたりする。じんじんと痛む手が、まるで他人のもののようだった。オレはいつの間にか、道路の上だというのにその場であぐらをかいて、膝元に頬杖をついていた。
 斜め前に見える玄関が開く音がして、さっと立ち上がる。学くんが今から学校に向かうようだ。
 ちょっと待たせ過ぎだぞ、そんな身勝手な言葉を心の中でつぶやきながら、オレはいつものように学くんのかっこいい登校姿を拝み始めた。
 早速オレの目の前を通過しそうになったので、いつも通り電信柱の陰に隠れようとして――学くんを追うようにして暴走する軽自動車が目に入った。
 これが、トラックだったら、学くんもすぐに気付いただろう。
 だけど、その車は今流行のエコカーだからなのか、エンジン音がほとんどしなくて、学くんは後ろにぐんぐんと近付いてきている車に気付いていないようだった。
 田舎でありがちな朝のラッシュのちょっとしたスピード違反にしては、動きが異常に真っ直ぐ過ぎる気がする。
 その車は、全く方向を変えることなく、速度を落とすこともなく、そのまま一気に学くんの背中に到達しようとしていた。
「危ないっ!」
 オレはとっさに飛び出していた。
 ほとんど、無意識の行動だった。今すぐ助けないと、学くんが死んでしまう、そう全身で感じたオレは、金切り声を上げながら学くんの体をとっさに横に押し退けようとしたんだ。
「亮っ……!」
 耳元で、学くんがオレを呼ぶ声が聞こえた。車が電信柱に衝突する音と、学くんの泣き叫ぶ声が、スローモーションの光景の中でこだまして、オレはそこで意識を手放したんだ――。

 それ以来、オレはずっとこの裏路地に住みついている。
 幽霊って、結構お得な存在なのかも知れない。
 あれから、寒さも空腹も感じることはなくなった。学くんに気付いてもらえないのは悲しいけど、その代わりオレは学くんをストーキングし放題だ。裏路地付近限定で。
 最後に手を繋いだのって、いつだろう。
 そんな思いが頭をよぎってからのオレの行動は早かった。
 幽霊になったオレは、学くんの全身を触りたい放題。
 ということでおとといは、勝手にそれとなく手を繋がせてもらった。
 そして昨日は、そのたくましい背中に抱き付かせてもらった。
 幽霊のオレは、とっても幸せだ。
 だって、天国か地獄に行ってしまわない限り、オレは毎日学くんの身体に好き勝手に触れることができるんだから。裏路地付近限定で。

 今日も大寒波の真っただ中だ。まあオレにはその温度は感じられないけど、相当寒そうな日だってことは分かる。ぽつぽつと往来する近所の人たちが、ものすごい厚着をしているからな。
 玄関から出てきた学くんの唇は、ひどい寒さのせいか、まるで口紅を塗ったみたいにほんのりと赤くなっていた。それが、すごく、すごく色っぽくて。
 ――ううっ、キスしたい……!
 二十四時間欲望に忠実でいられるのも、オレたち幽霊の特権だと思う。オレは衝動のままに、学くんのもとへと駆け寄った。いきなりぎゅっと抱き付く。
「――ん……?」
 おかしい。オレに抱き付かれた学くんが、ちゃんと立ち止まってくれるなんて。
 自分の欲望を最優先するオレは、おそるおそるその形のいい唇に、自分のみすぼらしい唇を近付けていった。
「っ……!?」
 な、ななななんだっ!
「んっ……んんぁっ……!」
 全く予想外のフライングだ! いきなりオレの口内に、学くんの舌が侵入してきている!
 な、なんだこのディープキッスはっ! な、何が起きているんだっ……!
 とろけるような甘く情熱的なキスで、膝の力が抜けていってしまう。
 視界が、一気に逆さまになった。
 そう思った瞬間、後ろからやって来た車のけたたましいクラクションが、オレの耳元を殴りつけたような気がした――。

「――気が付いた……?」
「ん? えっ……?」
 体育座りの体勢で目を覚ましたオレ。
 あれっ……? 異常に寒い。ものすごく寒いぞ。
 確かに今日は大寒波だったな……って、おい、幽霊のオレはそんな感覚、なくなっていたはずじゃないのか?
 いや、それよりも……
「学くん、なんでオレが見えるんだよっ?」
「は? 亮、なに寝ぼけたことを言ってるんだ?」
「んっ……んぁっっ……!」
 言うなりいきなり唇をふさがれて、オレはとび上がってしまった。
「ん……ふぁっ……」
 急に解放されて、そのままうつ伏せに倒れ込んでしまいそうになるところを、学くんの温かい手が受け止めてくれる。
「ダメだぞ、こんなとこで寝たら。お前、死ぬ気かよ? 俺、何度も何度も叫んだんだからな。学校に行こうとしたら、お前が体育座りしたままこんなとこで寝入っていてビビったぞっ。おかげで今日の学校は遅刻だ」
「へっ……?」
 優しく頭をなでられる。なんだか、今までと随分勝手が違う気がするぞっ……。
「最近亮が全然俺を相手にしてくれないから、ずっと欲求不満がたまってて……やっと久々に会えたかと思ったら、お前、こんな寒いとこで防寒着も手袋もなしで爆睡してた。ほんと俺、死んだかと思ったぞ」
「へ……? オレ、死んでないの……?」
「なーに寝ぼけたこと言ってるんだよ」
 頬を人差し指で突かれて、そのはっきりとした感触に、オレはどうやら今の自分が幽霊じゃないことを認識した。
「いくら叫んでも揺さぶっても起きないから、試しにキスしてみたらやっと目を覚ましてくれたんだ。ほんと、死んだかと思って超焦ったよ」
「な、なんでキスをっ……?」
 いくら起きないからって、白雪姫じゃあるまいし、キスっていう最高の決断に達したのはなんでだ……?
「そりゃ、亮が唇をやたら尖らせてたからだろっ」
「んっっ……ぁっ……!」
 オレの口内に、またもや学くんが侵入してくる。
 オレ、いつの間に学くんと、こんな熱い関係になってるんだ……?
 ……まったく訳が分からなくて、ひたすら戸惑うばかりだけど。
 オレが幽霊生活を謳歌していた間、現実世界は数分しか過ぎていなかったのか……?
 ううう、訳が分からない……!
 まあ、もういいよ。
 いつの間にか学くんと、こんな熱い関係が始まっているみたいだし。
「んぁっ……んんっ……っ……!」
 息が、できない……!
 今度こそ窒息で、本当に死ぬかも……?
 オレはそのむさぼるようなキスに頭をくらくらさせられながら、またゆっくりと意識を手放したのだった――。

(了)




こんにちは、作者の牛若です。
倉田真迂さんが幹事を務めるお題SS、今回のテーマは「寒波」「裏路地」「夢のなか」でした。
アバンギャルドと見せかけて、いつもの牛若かも知れません(笑)。
2014年第一弾のSSですが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
ではでは、またどこかでお会いしましょう。
今年もよろしくです!

牛野若丸

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