俺をヨゴして(2014年3月お題SS)★お色気注意★

BL♂UNION

高校生幼なじみもの。
牛野若丸幹事のお題SS(2014年3月)。
お題は「桃」「笛」「白」。
約4000字。




 卒業式の翌日は土曜日だった。
 午前授業を終えて、昼からオレたちバスケ部の新しい一ページが始まる。もう、気分転換に先輩たちが現れてくれることは二度とない。
「勇人、今日は体力トレーニングだ」
「大変だなー」
 幼なじみである部長の光輝の凛とした声を、マネージャーのオレは頼もしく思う。
 幼児体型で運動神経ゼロの地味なオレとは違って、神さまは全てを光輝に与えた。すらりとした長身とその大人びた綺麗な顔が、大親友のオレにとっては秘かに自慢だったりする。
 何でもかっこよくこなす光輝のそばにいるのは、実に気持ちのいいものだった。音痴なオレが芸術選択で音楽をとっているのも、光輝の低く透き通った美声や繊細な演奏を隣で聴きたいからだ。今日の一時間目の授業を思い出すと、思わずうっとりしてしまう。
「頼みがある」
 光輝はにっこりと笑いかけてきた。
「久々のトレーニングで疲れるだろうから、打ち上げ的な感じでジュースを買って来てほしいんだ」
「おお、お安い御用だぞ。何がいい?」
 光輝におつかいを頼まれるのはすごくうれしいぞ!
「カルピスにするか?」
「それはダメだ」
 オレの大好物を言ったのに、ぴしゃりと断られてむっとする。
「なんでだよ。光輝も甘いもの、好きだったろ」
「アレは別だ。そうだな――」
 ちょっと考え込む仕草をしてから光輝は言った。
「ピーチジュースを買って来てくれ」
「え?」
 確かに、ピーチジュースもオレの大好物だけどな。
「なんでカルピスはダメで、ピーチならいいんだ?」
「勇人の可愛い顔を見てたら思い付いた」
「ハァっ?」
 高みからの笑顔に抗議しようとしたが、光輝はお構いなしに続ける。
「明後日はひな祭りだろ? 今日はひな祭りイブイブだから、桃の節句ってことでピーチ」
「何だよそれ」
 高校生男子のバスケ部でなにバカげたことを言ってるんだ、と突っ込もうとしたんだけど、一瞬でさらりとトレーニングが始まってしまったので、オレは多大な疑問を胸にしまい込みつつ体育館をあとにした。
 どうでもいいことを深くは考えないことだ。オレは光輝の役に立てるだけで幸せなんだ。あいつが喜ぶ顔を見るとどれだけステキな気分になれるか、親友になったことのないやつには分からないだろう。
 オレは近くのコンビニでピーチジュースを買って来た。ドドンと一・五リットルのペットボトルだ。
 光輝がハッピーになる光景を想像してうっとりしながら、そのピーチジュースを部室の冷蔵庫にしまい込む。

 いつもの雑用をこなしているうちに、部活はあっという間に終わりを告げた。
「今日はゆっくりとくつろいで帰ってくれ」
 光輝の目配せに素早く反応したオレは、大急ぎで部室の冷蔵庫へと駆け込む。
「げっ」
 とんでもない失態に気付いた。
 重いペットボトルを両手で抱えながら、コートの真ん中であぐらをかいているみんなのもとへ戻る。正直に言うしかない。
「えっ、ピーチ? 超甘そう」
 誰かの不満げな声が気になった。よく見ると、苦笑しているやつが多い気がする。ピーチジュース、光輝以外のやつは好きじゃないのか?
 お、じゃあ違うジュースを買うついでに、っていうのは?
「すみません」
 部の最高学年とは言っても、マネージャーでしかないオレは敬語でみんなに謝る。気まずくて光輝の顔が見られないっていうのもあった。
「うっかり紙コップ、買って来るの忘れちゃいました。ピーチ嫌いな人もいるっぽいので、すぐ戻りますからちょっと待ってて下さい」
「いや、いいッス!」
 どういうわけか、オレの言葉に一年の誰かが激しく反応した。
「勇人先輩が買って来て下さったピーチ、ぜひ俺たちに飲ませて下さい!」
「いや、だけど紙コップが……」
「なくて大丈夫ッス!」
 別の一年が元気良い声を張り上げる。まるでピーチジュースが飲みたくてたまらなかったような口振りだった。みんなが口々に、ピーチで構わない、紙コップなしで構わない、とオレを気遣ってくれる。
「ありがとうございます……じゃあ」
 オレは大急ぎでキャップを開けると、手前の一年にその巨大なペットボトルを差し出した。
「いや、俺は後でいいッス! まず勇人先輩から飲んで下さい!」
「へっ? いや、オレは身体を動かしてたわけじゃないので……」
「いえいえ、いつも本当に忙しくしている勇人先輩から、ぜひ!」
「いや、それなら……」
 まずは部長の光輝から飲ませてあげよう、と言おうとするところを後輩たちにさえぎられる。
「とにかくまずは勇人先輩から飲んでほしいんッスよ!」
 みんなから強引に迫られて頑なに断るわけにもいかず、オレは最初の一口を失敬した。口内に桃の甘い味が広がる。
 幸せな味をかみしめてから辺りを見回すと、「次、俺ッス!」と突然みんなが一斉にピーチジュースを求め始めた。一番手前のやつに渡すと、まるでクモの糸に群がるカンダタたちのような争奪戦が始まる。
 妙なやつらだ。
 ちらっと奥にいる光輝の方に目をやると、いつになく無表情なのがちょっと気になった。オレは光輝に喜んでほしくてピーチジュースを買って来たというのに。光輝に回る前に飲み干されてしまわないか心配だ。
 だけど、予想外にピーチジュースの減りは遅かった。一・五リットルのピーチジュースはほとんど中身が残ったままの状態で、最後に部長の光輝へと回される。上下関係を分かっていない失礼なやつらだ。
「――要らない」
 今まで一度も聞いたことのない無愛想な、吐き捨てるような声だった。みんなが静かになる。
「部長……?」
 腫れ物に触るような後輩の声に、光輝は無表情のままぼそりと言った。
「俺、回し飲みとか、無理」

 一瞬で打ちのめされたオレは部室のど真ん中に立ち尽くしたまま、その場を動けずにいた。
 拳をぎゅっと握りしめる。光輝のために買いに行ったのに……!
 いつからあいつは潔癖症になったんだ? オレの愛情のこもったピーチジュースを飲まないなんて……!
「勇人、まだいたのか」
 いつもの穏やかな口調で光輝が現れる。鞄は、机の上にある。
「光輝……!」
 オレは精一杯の怒りを込めて光輝をにらみ付けた。にっこりと笑いながらも、どこかひやっとした空気を漂わせている光輝の気持ちが分からない。
「いきなり今日から潔癖症を発症ってかっ? お前、どうしちゃったんだよ! 前はオレの飲みかけのジュースだって、食べかけのアイスクリームだって、快く口に入れてたくせに! オレがわざわざピーチジュースを買いに行ったのは、光輝のためなんだぞ!」
「あれは汚い」
「っ……!」
 頭を鈍器でドンと殴られたような感覚だった。あまりにもきつ過ぎる一言だ。オレが口を付けたペットボトルを「汚い」だなんて……!
「お前、オレのことがいやになったのかよ! オレのことが汚いだとっ!」
 叫んでいるうちに声が枯れてきて、涙で視界が曇り始める。ただちょっと驚いた表情になるだけで、何も言おうとしない光輝を見るのがつらかった。
「先輩たちが卒業して偉くなった途端、長年の親友をあっさりと切り捨てる気かよ! ああ分かった、オレの口は汚いんだな! 汚いものが大っ嫌いなお前を今から震え上がらせてやる!」
 言うなりオレは、机の上にあった光輝の鞄を乱暴に取り上げて、がむしゃらに中を引っかき回した。
「オレのことを汚い、なんて抜かしたことを後悔させてやるからな!」
 鞄の奥に入っていた細長い布袋から中身を取り出す。つい今日一時間目に見たばかりの縦笛――リコーダーが顔を出した。
「お前の大事なリコーダーをめちゃくちゃにしてやる! ほんとはオレ、音楽の授業なんか受けたくも何ともないんだからな!」
 オレは涙で目をぐちゃぐちゃにしながら、得意気にそのリコーダーを光輝の前にちらつかせると、即座にその先を口に咥え込んですぐに引き抜いた。自慢の舌でたっぷりと舐め尽くす。
「どんなに洗っても拭いても落ちないぐらいに、オレの舌でベトベトにしてやるからな! 覚えとけよ! オレは怒ったら怖いんだからな!」
 リコーダーの先端が、オレの唾液まみれになっていくのが爽快だった。ざまあみろ!
「んっっ……」
 妙なうめき声を上げた光輝に視線を戻す。相手は妙に艶めかしい目つきでこっちを見ていた。オレはそれを得意気に見返す。
「どうだ! これでお前のリコーダーはボロボロだぞ!」
「もっと、やってくれ」
「ハァっ?」
 やめてくれ、って懇願されるかと思っていたんだが、ちょっと妙な反応だ。
「お前、なに強がってるんだ! 正直に言え、オレのツバまみれのこの汚らしいリコーダーはどうだ!」
「うん、ヤバい」
 オレの渾身の叫びに対する光輝の反応はやけに鈍かった。妖しい微笑みを浮かべながら、そっと両肩に手を置いてくる。オレはそれから逃れようとしつつ、現実の惨状を直視させてやろうとした。
「見ろ! お前には地獄のような苦しみだろうな! オレに舐め尽くされてボロボロのリコーダー、ざまあみろってんだ!」
「ああ、ヤバい。もっともっと、俺をヨゴしてくれ」
「ハァっ?」
 なんだその、色っぽい声は。半開きの目が妖し過ぎる。
「俺を、もっとヨゴすんだ……!」
「い、意味不明なことを言ってるんじゃないぞ!」
「勇人、全然分かってないだろ……!」
「潔癖症になっちゃったのはお見通しだからなっ!」
「バカ、カルピスを買わせなかったのは、あの白く美しいとろっとした液体がお前のアレを連想させたからだ……!」
「ハァァっ? キ、キモいこと言うなよなっ!」
「部員全員に間接サービスするなんて、どんだけ鈍いやつなんだ……!」
「ハァァァっ……?」
 なんか、光輝がどんどん意味不明なことばかり言い始めてるぞ! 潔癖症だけじゃなくて、こいつ、相当ヤバいんじゃないのかっ?
「その舌を止めるんじゃない……! さあ、もっともっとヨゴすんだ……! 俺のリコーダーをヨゴしてくれ……! あああああっん、んんあああ……!」
 なにおかしな喘ぎ声を上げ始めてるんだっ……?
 驚きのあまり、リコーダーの先端に舌をくっつけたままオレは固まってしまったのだった。

(了)




こんにちは、作者の牛若です。
今回のお題SSは僕が幹事を務めています!
考えたテーマは「桃」「笛」「白」でした。
牛若SS史上最もヘンタイな作品だと思っているのですが(笑)、いかがだったでしょうか。
あ、でもある意味薄いですよねー。
「好き」や「愛してる」というセリフがなく、ハグもキスも濡れ場もそれに準ずるものも(えっ 笑)一切ないものを書いたのは初めてかも知れません。
いろんな意味で微妙かも知れない、実験的な作品です(汗)。
ちなみにこの作品、BLと思わずに読むと、全くBLとは感じないかも知れません(笑)。
そうなのですよ、全ては読者さんの妄想次第♪(え)
えっと、「ヨゴして」とカタカナになっているのは、そうした方がエロいからと(笑)、「ケガして」と読まれるのを防ぐためです~。
ではまた、どこかでお会いしましょう!
(独り言:SS内の日付はリアルと同じだよ 笑)

牛野若丸

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