北風と太陽とオレ(2014年7月お題SS)

BL♂UNION

学生兄弟もの。
牛野若丸幹事のお題SS(2014年7月)。
お題は「風」「魚」「熱」「切れ」「勉強」。
約4000字。




 改札口を抜けると、兄ちゃんがいた。
「お帰りー」
 夕日がその端整な顔をきれいに照らす。安物のTシャツとハーフパンツとサンダルは、いつも通り超高級ブランド品に見えるよ。
「また迎えに来てくれたの?」
「愛する弟を守るためさ」
 そんなロマンチックなことを言って、兄ちゃんはオレの腕を優しく引っ張った。
 オレは毎日電車で高校に通っているんだけど、兄ちゃんは大学の単位も足りていてほとんど暇なのに、毎朝オレと一緒に駅まで行って、帰りもしょっちゅう駅の前で待ってくれているんだ。駅から家まで、ほんの二十分ほどなのにね。
 ちょっぴりシャイなオレと、そんなオレを静かに見守ってくれる兄ちゃんは、黙々と人気の少ない道を進んでいく。半袖のカッターシャツは汗びっしょりだ。
 一緒に歩くのは、とっても楽しいよ。
 真っ直ぐ歩みを進めながら、そっと目を閉じてみる。

 オレの、能力。
 こうやって目を閉じるだけで、普通の人には見えないものが見えるんだ。
 目を開けている時とほとんど同じ空間の中にいる、不思議なヒトたち。一見普通のイケメンかと思うけど、何だか雰囲気が違うんだよ。
 神さまかな、妖精さんかな。もう、深く考えないことにしたよ。オレの目に彼らが見えちゃっているってことは、向こうにはバレていないみたいだ。
 今までオレが見たのは――太陽さん、雨雲さん、北風さん、雷さん……あれ、天気系のヒトが多い?
 最初は普通のことだと思っていたんだ。目を閉じたらこういうものが見えるものなんだ、ってね。
 だけど、学校でこの話をすると、みんなオレのことをバカにするんだよ。
 そんなことが何度もあって、オレはもうこの能力を、兄ちゃんにしか話さないことに決めたんだ。
「――兄ちゃんも、目を閉じたら見えるの?」
 ある日そう聞いてみたら、兄ちゃんはにっこりと笑いながら「ううん、見えないなあ」と申し訳なさそうに答えた。
 オレががっくりとうなだれると、兄ちゃんは「でも俺はお前を信じるよ!」と熱弁をふるってくれたんだ。
「お前みたいな心のきれいな純粋な子には、神さまや妖精さんが見えて当たり前さ。よくあることだよ」
「ほんと?」
「うん。兄ちゃんや、お前の学校にいる奴らみたいな、汚れきった人間には見えないけどな。世界中を見渡せば、神さまや妖精さんと交信できるやつなんて、いくらでも腐るほどいるさ」
「そうなんだ~」
 そんな素晴らしい事実が聞けて、オレはとっても元気が出たよ。あ、兄ちゃんは全然汚れてなんかいないと思うけどね。
 オレは何度かこの能力で、大好きな兄ちゃんを助けてあげたんだ。
 雨雲さんが片想い中の太陽さんに構ってほしくて、大雨を降らせようと企んでいるのを知った日は、朝晴れていても兄ちゃんに傘を渡すのを忘れなかったし。
 雷さんが北風さんとの口喧嘩をこじらせて、本格的な戦争を始めようとしているのに気付いた日は、兄ちゃんが雷に打たれないように、兄ちゃんの鞄の中から金属系のものは全部取り除いたし。雷って、金属がなければ大丈夫なんだよね……?

 目を閉じて、歩き続ける。
 今のオレに見えるのは、黒いタキシード姿の北風さんと、白いタキシード姿の太陽さん。
 オレはちゃんと目を閉じているんだけど、その視界には目を開けた時とほぼ同じ世界が広がっていて、オレたちのちょっと斜め前に、北風さんと太陽さんが浮かんでいるんだ。
『ほんと、ハンサムだよな』
 北風さんが、ちょっとどすの効いた声で言う。その視線は、兄ちゃんの方。
 うん、本当に兄ちゃんって、ハンサムだよね。かっこいいよね。
『ハンサムって言葉は死語だよ』
 太陽さんがちょっと柔らかい声で答える。
『今の時代は、イケメンって言うんだよ』
 うん、本当に兄ちゃんって、イケメンだよね。かっこいいよね。
『惚れた』
 北風さんの声は、ぶっきらぼうだけどちょっと情熱的な響きがあった。
 え、惚れた……?
 北風さん、兄ちゃんのことが好きになっちゃったの?
 でも北風さんって、男だよね?
 確かに兄ちゃんはかっこいいけど。男同士の恋愛って、ちょっと大変そうだな。それに、人間と北風って、相性があんまりよくないんじゃないかな。
『うん、こっちも一目惚れかも』
 ぼそりと、太陽さんが笑顔でつぶやいた。
 え、太陽さんも兄ちゃんに恋しちゃった……?
 兄ちゃん、モテモテだね。そりゃ、容姿端麗で高校時代にはバレンタインデーにチョコをもらい過ぎて制鞄が破れちゃった兄ちゃんのことだし。オレは、毎年兄ちゃんのもらったチョコを全部食べさせてもらって、いつも鼻血だらけになるんだけどね。
『あ~、欲情するぞ。なんてステキな男なんだ』
 北風さんがわめき出す。
 うん、本当に兄ちゃんって、ステキだよね。かっこいいよね。
『よし決めた。欲望に忠実にいこう。こいつの裸を見たい』
『へっ? いやそれって、ちょっとヘンタイだよ』
 うん、太陽さんの言う通りだと思うよ。北風さん、ちょっとヘンタイ入ってるんじゃないかな。口を聞く前なのに裸が見たい、だなんて。
『今すぐこのイケメンの服を力任せに引っ剝がして、全裸をこの目で拝んでやる』
『本当にやるの?』
 太陽さんが苦笑しながら言うと、北風さんは自信満々に『見てろよな』と答えた。

 瞬間、ものすごい突風が来た。
「わ」
 思わず目を開ける。オレのちょっと小さな身体が、一気に吹き飛ばされてしまいそうだった。
「危ないっ」
 とっさに兄ちゃんがオレの全身を抱きしめてくれる。すらりと背の高い兄ちゃんは、北風さんの気まぐれな強風でもびくともしないよ。
「ありがと、兄ちゃん……」
 オレの声は、兄ちゃんの広い背中に吸い込まれていく。
「それにしても寒いな」
 兄ちゃんの温かい声が耳元でこだまする。制服姿の僕以上に、薄着の兄ちゃんにとっては災難だ。

『脱がすぞ! 引っ剝がすぞ!』
 目を閉じてみたら、北風さんの卑猥なラブコールが響いていた。

「兄ちゃん、オレのことはいいから早く帰ろうよ」
 こんな、人目のあるところで服を全部剝ぎ取られちゃったら、兄ちゃんが捕まっちゃうよ。
「大丈夫さ」
 兄ちゃんは穏やかな声で答えた。
「お前の身体は温かいから」
 そんな意味不明のことを言って、兄ちゃんはますますオレを強く抱きしめてくる。

『なんだあれは!』
『風で服を脱がすのは無理だよ』
 太陽さんは諭すような声で北風さんに言った。
『代わりにやってあげようか』
 そう言って太陽さんはいたずらっぽく笑う。
『見てて』
 言うなり、太陽さんは満面の笑顔になった。

 強風がいきなり止んで、曇り空にぽかぽかと太陽が顔を出す。
「いきなり温かくなったな」
 兄ちゃんが言い終わらないうちに、季節相応の熱い陽射しがオレたちに降り注ぐ。
「あちっ!」
 まるでやけどしたみたいな暑さでオレが悲鳴を上げると、兄ちゃんはますますオレを強く抱きしめてきた。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、兄ちゃん。それよりこれだと、ますます暑くなっちゃうと思うよ」
 うん、一気に額や背中から汗が噴き出してきたし。密着しない方がいいんじゃないかな。
「大丈夫さ」
 兄ちゃんは穏やかな声で答えた。
「お前の身体は涼しいから」
 そんな意味不明のことを言って、兄ちゃんはますますオレを強く抱きしめてくる。

『あああ、なんだあれは!』
 北風さんは怒声を張り上げていた。
『あのイケメンはあきらめようよ』
 太陽さんは兄ちゃんを脱がせられなくても、大してショックじゃなかったみたいだ。
『あのイケメンより、もっといい相手がここにいるから』
 そう言うなり、太陽さんは北風さんの腕を引いて、どこかへ消えていったよ。

「よし着いたな」
 オレと兄ちゃんは、タイマーでクーラーの入った涼しい我が家へと帰って来た。
「今日は天気が妙だったな」
「うん」
 そりゃ兄ちゃんの服を脱がして全裸を拝むために、北風さんも太陽さんも頑張ったからね。
 兄ちゃんの全裸、見られなくて残念だったな……。
 あれ、何考えてるんだろ、オレ。
 でも最後に兄ちゃんの裸をちゃんと見たのって、結構昔だよね。
 う~ん……。
 なんか、もやもやする。
「さてと、今日の晩ごはんは、お前の大好物の刺身盛り合わせだぞ。今冷蔵庫から出すからな」
「え、まだ全然夜じゃないよ」
「お前の好物のパンナコッタとチーズケーキも今から作るから。先にメインディッシュは済ませちゃえ」
「あ、ありがと……」
 兄ちゃんって、時々強引だけど、おいしいものを毎日食べさせてくれるから、オレはとっても幸せだよ。
「スーパーの安物じゃなくて、老舗の魚屋の一番高い盛り合わせだからな」
「え、うわ、ありがとう」
 オレの喜ぶ顔を見た兄ちゃんは、さっと二つの茶碗にご飯をよそって、刺身の醤油の他に、特製の味噌汁も用意してくれた。
「ありがとう。……ねえ、兄ちゃん」
「なんだい?」
 う~ん、やっぱり、もやもやするからね。
「オレ、ちょっと、頼み事があるんだけど……」
「勉強を教えてほしいのかな?」
 いつもの満面の笑みで先回りしようとする兄ちゃん。
 ううん、ちょっと違うよ。
「兄ちゃんの、久しぶりに見てみたいんだ。えっと……全裸」
「オーケー」
 即答されて、逆にオレの方がびっくりしてしまった。
「へっ?」
「お前のリクエストには何でも答えてやるぞ。その前にまずは食事を済ませような。いや~それにしても――」
「ん……?」
「お前もやっと分かってきたんだなー」
 ん、ちょっと意味が分からないけど?
「こちらからもリクエストするよ。まずその鯛を一切れ口に咥えて」
「え?」
 極上の刺身を早く食べてみろ、ってことかな?
 オレはそっと醤油を付けると、そのまま口元に持っていって、ぱくっと咥えた。
 こうかな?
「そうそう」
 言うなり兄ちゃんはオレの口からわずかに出っ張った鯛の刺身を、正面から口に咥えた。
 一切れのお魚を、二人で咥え込んでいる。
 何だろうね、これって。

(了)




こんにちは、作者の牛野若丸です。
主催者の僕が幹事を務める7月お題SS、今回のお題は「風」「魚」「熱」「切れ」「勉強」でした。
自分が挑戦したのは「キモカワ兄弟」(笑)。
毎度のごとく、義兄弟かガチかはお好みで。
いかにめちゃくちゃなSSでそれなりの(?)萌えを演出できるか、というチャレンジでしたが、読後感はいかがだったでしょうか?
ではでは、またどこかでお会いしましょう。
これからもよろしくです!

牛野若丸

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