王子さまってすごい(2014年8月お題SS)

BL♂UNION

キモカワファンタジーもの。
沙色みおさん幹事のお題SS(2014年8月)。
お題は「海」「王子」。
約4000字。




 日本を離れてからだいぶ経つなあ。
 そりゃ、僕がいたのは今時珍しい悪徳児童養護施設だったからどうでもいいけどね。
 ほんとここ、どこなんだろう。こんな、絵本の中の王国みたいな町並みが、今の世の中にもあるものなんだね。『むかしむかし、はだかの王さまがいました』っていうよくある童話みたいな感じ。
 実際、僕をここまでさらって来たのは、本物の王子さまなんだよ。
 僕がいつも通りお腹をすかせて学校に向かっていたら、校門の前でいきなり呼び止められたんだ。いかにも王子さまって感じの容姿で、僕の顔を見るなり「君だ!」と日本語で叫んできた。
 で、どういうわけか僕はその場で気を失って、気が付いたらこの国にいるわけ。
 苦痛な毎日に嫌気が差していた僕でも、最初はさすがに抵抗したよ。『ここはどこだよ!』とか、『日本に帰してよ!』とか、必死に叫んだんだ。
 聞いたことのない言葉を話すたくさんの家来を従えた王子さまは、日本語でこう答えた。
「私の妻になってくれ」
 えっ、て最初は開いた口が塞がらなかったよ。僕は女の子じゃないし、そもそも奥さんにする人をわざわざ日本からさらって来るっていうのも意味不明だし。
 だけど、王子さまはこう答えたんだ。
「君は、私がずっと探してきた世界一の美少年なんだ」
 え、僕が? 探してきたって、どういうこと? 頭の中がハテナマークでいっぱいで、僕はいっぱい質問したよ。
 どうやら、王子さまは日本の観光旅行中に、いつものコンビニでエロ本を立ち読みしている僕を偶然見かけて、あまりの美少年ぶりに一目惚れしちゃったらしい。
 僕って、そういうのじゃないと思うけどね。だって、本当に美少年だったら、芸能事務所とかがスカウトに来るだろうし。
 でも、王子さまは真剣な顔をして僕を口説くんだ。「欲しいものは何でも買ってやるし、セックスも必要なら一日何十回もするよ」って。僕は、「欲しいものはちょっと今は思い付かないし、セックスもしなくていいよ」って答えた。
 だけど、王子さまは僕を毎日朝から晩まで、必死に口説き続けたんだ。「絶対に君を幸せにする。妻になってくれ」って。何百回もその言葉を聞き続けていると、さすがに頭がくらくらしてくるよ。
 でも、重要なことがあるよね。
「王子さまは僕の顔が好きなだけなんでしょ? だったら、もし今の僕の顔が王子さまの好みだとしても、僕の顔が経年劣化しちゃったら捨てられちゃうってことだよね?」
 だけど、王子さまは自信満々に答えた。
「その世界一の美貌は入り口でしかないよ。私は君の全てが好きだ。君がその美貌にふさわしい優しい心の持ち主であることは、これまで私が直々に尾行し続けた結果からも、火を見るより明らかだ。また、もし君が自分の顔の変化に不満な場合は、我が国自慢の美容大臣が完全ノーリスクでサポートする。何より、我が国自慢のコラーゲンジュースを飲み続ける限り、君は少なくとも八十歳ぐらいまでは今の美貌をキープできるはずだ」
 うーん、熱弁をふるってくれているけど、ちょっと難しくてよく分からないな。でも、とりあえず僕は安心していいって、王子さまが懸命に言う気持ちは、ひしひしと伝わってきたよ。
「じゃあ王子さま、ちょっと考えてみるよ」
 僕がそう言うと、王子さまはひどくうれしそうな顔をした。
 王子さまは僕を口説いたらすぐにセックスするつもりだったらしいけど、僕がダメって言ったら大人しく思い留まってくれた。
 それからの王子さまは、ひたすら僕を国内のあちこちへと連れ出して、僕に観光旅行みたいなのをさせてくれたんだ。
 ずっと黙っているのも疲れたから、僕と王子さまはいろんな話をした。「僕と結婚しちゃったら、王家の血筋が絶えちゃうんじゃない?」って聞いてみたんだけど、王さまには別の城に王子さまが腐るほどの人数いるから、ちょっとばかり男と結婚する王子さまがいても大丈夫なんだって。
 危ないっ、どんどん王子さまと結婚することがいいことのように思えてきちゃったな。

 毎日僕に好きになってもらおうと苦心している王子さまは、快晴の今日は僕を海に連れて行くと言い出した。
「いやだよ! だって僕、泳げないから!」
 カナヅチの僕は必死に抵抗したけど、王子さまは「君は私にメロメロになるよ」なんて意味不明のことを言って、僕を無理やり海岸まで連れてきた。
 僕は周りの様子が変であることに気付いた。
「ねえ王子さま、どうしてあんなにいっぱい大型扇風機が浜辺に置いてあるの?」
「それは、君が暑く感じないようにするためさ」
「じゃあ、どうして空にはあんなにいっぱいのヘリコプターがあるの?」
「それは、君に万が一のことがあった時のための備えさ」
「ふーん……」
 何かちょっと、この国にしてはハイテクすぎない? 大がかりすぎて引いちゃうけどな。
 それよりも僕にとって大変なのは、王子さまが木でできた小舟に僕を乗せようとすること!
「海になんか出たくないよ!」
 懸命に叫んだのに、王子さまは僕たち二人だけで定員ぎりぎりの小舟を、オールを巧みに操って発進させてしまう。
「うわわわ」
 水が怖くて思わず王子さまの背中にしがみつくと、王子さまはオールを漕ぐ手を休めて僕を抱きしめる。顔がちょっとうれしそうなのが憎らしい。
「私にしがみついていれば大丈夫さ」
 王子さまは僕の耳元で力強くささやいた。
「さあ、周りを見てごらん」
 言われて周りを見ると、もう海岸が全然見えなくなっている。怖くてたまらないけど、王子さまが僕を安心させるようににっこりと笑いかけてくれるのが、ちょっとだけ心地よかった。
「青空の太陽に照らされた海は、とてもきれいだろ?」
 僕を抱きしめながらそう言う王子さまの声は、ちょっとだけロマンチックだ。
「うん……」
 僕はぎこちない深呼吸をしてうなずいた。
 と、そこでいきなり、ぴかっ、という大きな音が聞こえた。
 えっ、雷っ? と思う間もなく、いきなり空からざあああっと雨が降ってきた。
「うわ王子さま、雨だよっ!」
 慌てた僕は、王子さまの肩にすがりついて叫んだ。
「帰らなくちゃっ!」
「ああ」
 王子さまは落ち着いた声でオールを漕ごうとしたけど、ものすごい勢いの雨と暴風でオールは吹き飛ばされてしまった。
「うわあああ!」
 僕は悲鳴を上げる。いきなりの大嵐。僕はパニックを起こしていた。
 上から降り注ぐ滝のような雨の水圧で小舟が揺れる。周りの波はそんなに大したことないのに不思議だ。
「安心して」
 王子さまはずぶ濡れになりながらもそんなかっこいいセリフをささやいてくるけど、オールがなかったら……もう、どうしようもないよ!
「どうしようどうしようっ……オールがっ……」
 僕は王子さまにしがみつきながらぶるぶる震えていた。小舟が思いきり揺れて、そのまま一気に視界が逆さまになる。
「わわわわわっ……んっ……!」
 僕たちは、真っ逆さまに海に投げ出された。衝撃で王子さまから手を離してしまった僕は、恐怖の真っ只中で必死にもがく。
 水が怖くてたまらない。しょっぱい味が口の中に広がる。水面から顔を出すのに必死で、がむしゃらに腕を振り回すだけ。顔がびしょ濡れで、自分が泣いているのかどうかも分からない。息が、できないっ……!
 と、そこで僕の身体が温かいものに抱きしめられる。いや、海水でびしょびしょだから本当は温かくなんてないはずなんだけど、僕はそう感じたんだ。
 王子さまは、僕の身体をしっかりと受け止めて背中をさすってくれていた。
「大丈夫。私は泳ぎが得意だ」
 そうなの? 初めて聞くけど……。そんな不安を感じる間もなく、王子さまは海外ドラマのライフガードのように、僕を優しく脇に抱え込んで、荒れ狂う海の中をすいすいと泳いでいく。
 まるで、人魚に助けてもらっているみたいだった。
 人魚姫じゃなくて、人魚王子、かな……。
 そんなことを考えているうちに、恐怖の絶頂からちょっとだけ回復した僕はそのまま気を失ってしまったんだ。

 気が付くと、僕は砂浜の上に仰向けにされていた。
「気が付いたね」
 王子さまはにっこりと微笑みながら僕を見た。
「なあ、海は楽しかっただろ」
 そんなわけないよっ。あれ、なんか浜辺は普通に快晴に戻っちゃってるけど……。すっごい晴れてるっ。不思議だ。
「あんな怖い海、大嫌いだよっ!」
「私と一緒なら、どんな海でも安心って分かっただろ」
「えっ……」
 そうやって耳元で温かい声でささやかれると、ちょっと困っちゃうな……。
 僕、すっごく怖くてたまらなかったけど、あの時王子さまに身体を抱えられたら安心できたんだよね。
「私と一緒なら、舟なんていらない。私は君を、百パーセント幸せにしてみせるさ」
「そ、そういうものなの……?」
 なんか、いまいち王子さまの話は納得できないけどね。
 だけど、僕の目を力強く、真っ直ぐ見つめてくる王子さまの瞳はすっごくきれいで。
 確信に満ち溢れていて。
 なんだか、どきっとしちゃった。
「私のことが、好きになれそうか?」
「ううん……」
 僕は返事に困っていたつもりだったんだけど、王子さまは僕がうなずいたと思ったみたい。
「ありがとう。絶対に君を幸せにするよ」
 そう言って、王子さまはいきなり僕の頬に口づけをしてきた。
「わっ」
「ははは、赤くなって可愛いな」
 ううう、僕を子供扱いしないでよ!
 でも、海に入る前より、今の僕には王子さまがちょっとだけかっこよく見える気がするな。
 そう言えば、見渡す限りきれいな浜辺だけど。
「ねえ王子さま。あの大型扇風機とかヘリコプターとか、どこに行っちゃったの?」
「さあ? 資源は大事にしないといけないからね」
「え?」
 僕には、王子さまの言う意味がよく分からなかった。
 まあ、扇風機もヘリコプターも、多分役に立ってないよね。
 王子さまは僕を身一つで助けてくれたんだから。
 王子さまってすごい。

(了)




こんにちは、作者の牛野若丸です。
今月でブログ村を卒業なさる沙色みおさんが幹事を務める8月お題SS!
今回のお題は大きく分けて2つのコースがあり、その中でもバリエーションがある中、僕が選んだのは、
~「海」というテーマで、「王子」属性の人物を登場させる~
というお題でした。
先月に引き続き「キモカワ」もの(笑)にチャレンジしましたが、読後感はいかがだったでしょうか?
感想をお聞かせ頂けるととってもうれしいです。
ではでは、またどこかでお会いしましょう。
これからもよろしくです!

牛野若丸

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