節約(2014年10月お題SS)

BL♂UNION

学生キモカワヘンタイ兄弟もの。
牛野若丸幹事のお題SS(2014年10月)。
お題は「茶」「鈴」「まめ」。
約4000字。




「健人、すまない」
 オレが高校から帰って来るなり、大学生の兄ちゃんは申し訳なさそうな声で言った。
 それは、そろそろ半袖でうろうろするのはやめた方がいい時期だよねって、暑がりのオレでも思うぐらいに肌寒くなってきた頃のことだった。もう昨日から毛布を被るようになったよ。
 ついこの前まで鈴虫の鳴く音がすごくきれいだったのにね。もうあの鈴虫たち、みんなしんじゃったのかな?
「さっき母さんから連絡があったんだよ。ちょっとしばらく金欠らしいんだ」
「金欠?」
 オレは馴染みのない言葉に首を傾げた。
 だって、うちは母子家庭だけど、母さんは日本一の売れっ子歌手だから、無限の歌唱印税でお金には困らないはずなんだ。
 ま、母さんはツアーやレコーディングで忙しくて、最近はあまり家に帰って来ないけどね。大好きな兄ちゃんと一緒だから、そんなにさびしくはないよ。
「うち、貧乏になっちゃったの?」
「いや、一時的なものだよ」
 そう言って兄ちゃんはにっこりと笑った。
「ちょっと母さんが調子に乗って、株に投資しすぎたみたいなんだ。すごい損をしちゃったらしい。でもまた近いうちに印税がたくさん振り込まれるから、それまでの辛抱だよ」
 うーん、オレは食べ物のカブもあんまり好きじゃないし、トウシとかの難しい話もちょっとよく分からないんだけど。
「母さんは大丈夫なの?」
「うん、それは心配ないから。ただ、母さんは今かん詰めレコーディング中で、電話もメールもほぼできないよ。あと――」
「あと?」
 兄ちゃんはそこで、ちょっとごくりと唾をのみ込んだ。母さんに連絡できないのもさびしいけど、他に何かあるのかな。
「しばらく節約しないといけないんだ。食べ物とか、洋服とか」
 え、それって結構大変じゃないのかな。ついこの前、オレも家庭科の授業で習ったところだよ。人間は衣・食・住がないと生きられないんだって。そのうち二つがヤバいのって、結構危ない気がするよ。
「ははは、そんなに深刻な顔をしなくても大丈夫さ。ただ、今所持金ゼロだから、家にあるやつでやりくりしないといけなくて」
 え、所持金ゼロなんだ? それって、かなりヤバくないかな。
「えっと、食べ物は今あるやつでちゃんとおいしい料理を作ってやれるから大丈夫だけど、飲み物がちょっと大変だな。今、どくだみ茶しかなくて……」
「えっ」
 そんなの困るよ。だって、母さんは美肌にいいからって毎日飲んでいるらしいけど、オレはあれを飲むとお腹が痛くなるんだ。
「どくだみ茶なんかいやだよ。それしかないんだったら、水を飲むから」
「水ばかり飲むのは危険だ」
 兄ちゃんはとっても真剣な顔でオレの言葉に反論した。
「水ばっかり飲むと、血液の濃度が薄くなってしんじゃうこともあるって、この前テレビでやっていたぞ」
「え、そんなの怖いよ」
 でも、どくだみ茶しか飲めないなんていやだな。
「あと、服が問題だ。あいにく母さんが衣替えの時に冬服を実家に置いて来ちゃったらしい。今、冬服がないんだ」
「えっ」
 そんな。これからどんどん寒くなるのに。
「だから、しばらく家ではハーフパンツとTシャツしか着るものがないんだ。寒かったら重ね着すればいい」
「そんな……」
 これって、相当ヤバい状況だよね? オレ、かなり怖くなってきたよ。
「それから――」
 え、まだあるの?
「さっき、洗濯機が壊れちゃってね。修理したいんだけど、お金がないから……」
「えっ」
 それは一番大変だよ。だって、同じ服をいつまでも着ているわけにはいかないからね。
「あ、でもハーフパンツとTシャツはたっぷりあるから大丈夫。足りないのは……パンツと靴下だけなんだ」
「えっ」
 そんなの困るよ。そういう下着系の方こそ、毎日代えないとダメだって、母さんも兄ちゃんも言っていたのにね。どうしよう。
「すまない、健人……」
 兄ちゃんが申し訳なさそうに、オレをじっと見つめてくる。うーん、その優しい目を見たら、ちょっとだけ浮上できたよ。
「分かったよ兄ちゃん。兄ちゃんも母さんも大変なんだもんね。オレ、頑張るよ!」

 あーあ、甘く見ちゃってたな。
 極貧生活って、こういうのを言うのかもね。
 オレはすぐに体調を崩してしまって、学校を休む羽目になっちゃったんだ。
 だって、パンツと靴下はすぐに底をついてしまったし。パンツも靴下も、ずっと洗わずに同じものばかり使っていると、ばい菌が増殖してしんじゃうから使っちゃダメなんだって。
 ずっとノーパンでズボンをはいていたら、どくだみ茶との相乗効果ですぐにお腹を壊しちゃった。それに、靴下なしで歩き続けていたものだから、足はまめだらけになっちゃったよ。
 一応学校では制服を着ていればいいから、肌寒い中でもちょっとは温かいけどね。本当は家でも制服を着ていた方が温かくていいんだけど、兄ちゃんが「いくら節約中でも、制服のまま寝たりしてしわだらけにしちゃダメだよ」って言うんだ。確かにダメだよね。
 もう、最後に学校に行った日はお腹が痛くて足の指が痛くて大変だったな。
 なんとか家にはたどり着いたけど、体調を完全に崩してしまったオレは、大学を休んだ兄ちゃんの看病を受けることになったんだ。
 兄ちゃんは大学生で制服がないから、朝から晩までハーフパンツとTシャツでうろうろしていないといけないのに、オレと違って元気なままなのがちょっとだけ腹立たしいな。あ、でも兄ちゃんが元気だからオレは看病してもらえるんだよね。
「すまない健人、兄ちゃんのせいで……」
 兄ちゃんはなぜか申し訳なさそうに謝りながら、ベッドに横たわったままのオレを介抱してくれる。まめだらけの足にはクリームを塗ってくれるし、温かい水――あ、オサユって言うんだよね――も飲ませてくれる。
 だけど、「水ばかり飲んでいたら血液の濃度が薄まってしんじゃうから」、なんて怖いことを言って、兄ちゃんはオレの身体が治りかける時に限ってどくだみ茶を飲ませてくる。そのせいでまた体調を崩しちゃって、オレはなかなか学校に復帰できないよ。
「母さんの印税、まだかなあ」
 もういろいろと疲れちゃったオレは、そうこぼしてみる。
「うーん、たぶんもうすぐだよ」
 兄ちゃんはそう言って、にっこりと笑いかけてくれた。
 オレの部屋は構造的に冷えやすいらしくて、暖房をつけても結構寒い。ハーフパンツ&Tシャツ姿のオレにはちょっと大変。
 だけど、兄ちゃんはすっごく優しいから、オレの身体を温めるための秘策を思い付いてくれたんだ。
 それは、オレと兄ちゃんが添い寝をすること。
「ふふふ、健人の身体はやっぱり温かいな~」
 兄ちゃんはそんなことを言いながら、オレが寒くならないように全身をぎゅっと抱きしめてくれる。シングルベッドに二人が寝るのはちょっと大変だけどね。
「オレの身体は温かくなんかないよ。兄ちゃんが抱きしめてくれるおかげだからね」
「ふふふ、なんて最高にモエることを言ってくれるんだー」
 そう言いながら、兄ちゃんはオレの頬を人差し指で突いてくる。モエるって言葉の意味は、ちょっとよく分からないけどね。
「兄ちゃん、ありがとう」
 オレは、至近距離で優しい顔を見せてくれている兄ちゃんにお礼を言った。
「兄ちゃんのおかげで、足のまめももうすぐ治りそうだし。これでどくだみ茶以外の飲み物さえあれば、また学校に行けるのにね」
「ふふふ、もうすぐしたら印税が入るはずさー」
 兄ちゃんはにっこりと笑いながら、オレの髪をなでてくれた。
 と、そこで。ぴこぴことオレのスマホの着信音が鳴った。
「あ、母さんだよ」
 うれしくてたまらないオレは早速スマホを耳に当ててみるけど、添い寝中の兄ちゃんはどういうわけか、あまりうれしそうな顔には見えなかった。なんでかな。
「母さん、久しぶり!」
『あら健人、大丈夫? 担任の先生から何度も着信が来てたからさっき話したんだけど。ここ最近体調不良で学校に行ってないのね? 先生が、すっごくしんどそうだったって言ってたわ。お兄ちゃんはちゃんと看病してくれてる?』
「うんもちろん。オレは大丈夫だよ。兄ちゃんがすっごく優しくオレを看病してくれるからね。もう足のまめもだいぶ治ったし。だけど、まだ飲み物がないから」
『え、飲み物がない? どういう意味?』
 なぜか母さんに聞き返されて、オレはちょっと面食らっちゃったよ。
「だって、母さんの印税がまた振り込まれるまで、お金がないんでしょ? わっ」
 いきなりスマホを兄ちゃんに奪い取られて、ちょっとびっくりしちゃった。
「母さん、俺だよ。ちょっとキャッシュを取りに行く暇がなくてね。もう大丈夫。健人は俺がしっかり看病するから安心して。じゃあね、バイバイー」
「あれ、もう電話切っちゃったの? オレ、もうちょっと母さんと話したかったのに」
「すまない健人、母さんは忙しいらしいんだ」
 そうか、そりゃそうだよね。レコーディングの邪魔をしちゃいけないもんね。でもちょっとの間だけでも母さんと話せてよかったな。
「そろそろ終わることにするよ」
 兄ちゃんはオレから目をそらしながら言った。
「終わるって、何を?」
 オレには兄ちゃんの言う意味がちょっとよく分からなかった。
「健人の悩殺的可愛らしさにいつまでも付き合っていると、俺が本当に筋金入りのヘンタイになりそうでヤバい」
 添い寝中なのに、なんかどぎついことを言ってるね。
 兄ちゃんの言っている意味はよく分からないけど、オレはこう答えたよ。
「兄ちゃんいつも看病ありがとう。兄ちゃんはすっごく優しいから、ヘンタイなんかじゃないよ」
「ありがとう、健人……!」
 兄ちゃんは、どういうわけかすごく情熱的な叫びと共に、オレの身体を抱きしめてくれたんだ。

 母さんの印税、やっと振り込まれたんだって。
 よかったね。これでもうハーフパンツでうろうろしなくてもよくなったよ。足にまめができることもなさそうだね。どくだみ茶も飲まなくていいし。
 だけど、兄ちゃんに看病してもらえないのは、ちょっとさびしいかな。
 まあ、またの機会でいいよね。

(了)




こんにちは、作者の牛野若丸です。

主催者の僕が幹事を務める10月お題SS、今回のお題は「茶」「鈴」「まめ」でした。
牛野若丸史上最大にハードなSSだったかも知れません(笑)。
キモカワヘンタイ兄弟(!)、いかがだったでしょうか?

「キモ」と「カワ」、どちらの濃度を高く感じるは人それぞれだと思います♪
何も起きていない物語だと思われた方もいらっしゃるかも知れませんね(笑)。
毎度の如く、「義」か「ガチ」かはお好みで。

よかったらご感想を頂けるとうれしいです。
これからもよろしくです!
ではでは~。

牛野若丸

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