激おこバレンタイン(2015年2月お題SS)

BL♂UNION

高校生学園もの。
牛野若丸発案のお題SS(2015年2月)。
お題は「氷」「咳」「バレンタイン」。
約3500字。




 今日はバレンタインだ。
 五時間目の家庭科の調理実習が終わって休み時間になった。
 おれは再び下駄箱へと向かう。これで何度目だろう。
「正也、また見に行くのか?」
 親友の周一が、人の良さそうな顔でおれを慈しむように見つめてくる。
「別に付いて来なくてもいいぞ」
 そう言いながら、おれはあっと言う間に自分の下駄箱の前にたどり着き、ありったけの期待を込めて中をのぞいた。
「どうだった?」
「う~、こんにゃろー!」
 優しい周一におれは八つ当たりしてしまう。下駄箱の中にはおれの汚い土足があるだけだった。
「いつになったらチョコを入れてくれるんだ! うちの女子たちはこの男の鑑のおれさまが神々しすぎて、下駄箱に手を突っ込む勇気さえ出せないっていうのかよ!」
「――どうだい、自称モテモテの正也くん」
「ひゃっ」
 後ろから肩にぬうっと手を置かれてとび上がった。突如現れた幼なじみの康介のバカにするような声に、おれは一気に激おこぷんぷん丸になる。
「俺はもうだいぶチョコはもらったけど、果たして正也は俺に勝てるかな~?」
「ふん、バカにしやがって!」
 おれはあごを上げて叫んだ。おれと康介はどちらがたくさんのチョコをもらえるかで勝負をしているのだ。
「ふん、いつも学校中の女子を魅了しながらそれをクールに無視するお前なんかに、この男の鑑の正也さまは負けないからな! 今、学校中の女子たちはおれにチョコを渡す勇気を出そうと懸命に自分を奮い立たせている最中なのだ! 放課後までにはお前のチョコの数を余裕で超えまくってやるぞ!」
「オーケー、放課後だな? 楽しみに待ってるよ」
 康介はにっこりと微笑むなり教室へと帰っていく。おれと周一の二人きりになった。
「う~~、あいつめ、余裕を見せつけやがって!」
「ははは、そんな真っ赤な顔で怒っているやつにチョコをくれる女子はいないぞー」
 おれと康介の戦争をいつも微笑ましそうに見ている周一は、おれの左肩に手を置いてきた。
「それで正也はチョコ、少しはもらえたのか?」
「ゼロだ」
 おれは即答する。まったく、こんな男の鑑のおれさまの魅力が理解できない女子がいるとは世も末だ。
「それなら」
 周一はブレザーのポケットに手を突っ込んだ。
「オレがまず正也にチョコ第一弾をあげるよ」
「へっ?」
 微笑みながらじっと見つめられて面食らう。周一は手にピンク色の小箱を持っていた。
 その瞬間、おれは吹き出した。
「がははは、さすが周一! おれさまへの熱い気遣い! こんな時に備えて心のこもった友チョコまで用意してきてくれるとは! 親友のありがたみをつくづく感じるぞ!」
 モテる男の鑑の証がもらえない不満がとりあえず一気に氷解したおれは、チョコを受け取るなり周一に抱きつく。
「ひぇっ、まだオレ、心の準備が……」
「お前は世界一の親友だ!」
 おれはさわやかな声で叫んで、なぜか微妙に笑顔がぎこちなくなった周一の肩を両手でぎゅっとつかんだ。
「まだ次の休み時間もあるし、掃除の時間もあるからな! これからおれさまには大量のチョコが降ってくるはずだ!」
 希望の見えてきたおれは、戸惑う周一をよそにスキップしながら教室へと戻るのだった。

「う~~、なぜだ!」
 なぜだ! なぜ女子たちはおれさまの魅力に気付かない!
 まさか放課後まで、周一以外誰もチョコをくれないなんて思わなかったぞ。
「う~~、おれはどうすればいい!」
 今、教室にはおれと周一しかいなかった。学級委員もやっている康介は用事で職員室に呼び出されたらしい。あいつが帰って来たら、いよいよチョコ勝負の決着がついてしまう。
「まあまあ、別に何かを賭けていたわけじゃないんだろ? それにオレの手作りチョコ、結構うまいぞー」
 のんびりとした口調で言ってくる周一をおれは「いやいや」と制する。
「このおれさまがあいつに負けるわけにはいかないのだ!」
 昔から康介と何を勝負しても僅差で負けてしまう。ましてチョコの数は、今だと周一からもらった一つだけだ。こんなボロ負けになるのはいやだぞ!
 さあおれさまよ、考えるのだ。聡明な頭を使って考えるのだ。康介に勝つ方法を。
 その瞬間、おれはひらめいた。とっておきの作戦を。
 正々堂々と勝ちたかったのはやまやまだが、おれの男のプライドを死守するために、少々の裏技は許してもらおう。
「よし周一、とっておきのアイディアをひらめいたぞ」
「ん?」
 おれはおっほん、とかっこよく咳払いをする。
「おれはとっくにたくさんのチョコをもらいまくったという設定にする」
「設定?」
「ああ、設定だ。そして、チョコが大好きなおれは、それを全部食ってしまったことにする」
「は?」
 頭にハテナマークを浮かべた状態の周一に、おれはとっておきの作戦を得意気に説明した。
「もちろん、ただ『食った』って言っただけじゃ信憑性が薄すぎる。そこで、ちょっと思い出してみるんだ。漫画でチョコを食べまくったキャラは最後どうなる? そう、ハナヂが出てくるのだ! つまり、おれさまがハナヂを出していれば、康介はおれがチョコを食べまくったというウソを信じるはずだ!」
 おれが見た時代劇でも似たようなシーンがあった。ケガをした浪人が屋敷に逃げ込んできて、主人公たちがかくまってやろうとしたら追っ手が来る。床に落ちている浪人の血の跡を証拠にして追及してくるんだが、とっさにその屋敷のおかみさんが隣に座っていた男の鼻にパンチを食らわし、「その血はハナヂです」と言いきることで一件落着したのだ。
「いや正也、なんか話が飛躍している気が……」
「ふふふ、おれさまの聡明な頭脳による完璧な作戦に狂いはないぞ。さあ周一、やるんだ! おれの鼻にその拳で力いっぱいパンチしてくれ! 鮮やかなチがかっこよく炸裂するぐらいのやつをな!」
 おれは堂々と自分の鼻を、周一の目の前まで持っていってやる。
「ま、待て待てっ。お前、激しく間違っているからっ」
「親友のおれさまの切実な頼みが聞けないというのか! こんなこと、お前にしか頼めないぞ! さあ、ひと思いにやってくれ!」
「正也のそのぬいぐるみみたいな、小作りの可愛い鼻にパンチできるわけがないだろうがっ」
 周一は妙なことを言っておれの名案に抵抗しようとする。
「何をためらっているんだ! お前、おれに愛情たっぷりの友チョコをプレゼントしてくれたばかりだろうが! さあ、今すぐパンチするんだ! おれの言うことを聞かないと絶交してやるぞ!」
「な、なんだとっ……。う、ううう――よし、分かったっ」
 強引なおれの言葉で観念した周一は、右手で拳を作ってその場で構えた。
「ああ、正也のきれいな鼻なんかにパンチしたらバチが当たりそう……」
「ブツブツ言ってないでさっさとやってくれ! 早くしないと康介が来てしまうだろうが!」
 おれはそう叫んで目をぎゅっとつぶってみせる。
「わ、分かったっ。よし、いくぞっ。――五、四、三、二、一、うぎゃぁっ!」
 ん? なんでパンチする側の周一が叫び声を上げているんだ? そう思って目を開けてみたら、どういうわけか周一はその場に倒れていて、目の前に立っていた男におれは驚きの声を上げた。
「康介っ?」
 今まで見たことのない凶暴な表情をしていてかなり怖い。おれの言葉が耳に入らないのか、康介は倒れた周一の襟をつかんで無理やり立たせるなり、その襟を締め上げて激しく揺さぶった。
「い、痛っ……!」
「こいつめ! 俺の正也に対して親友ヅラをして金魚のフンのように付きまとっている害虫だからいつかは駆除してやろうと思っていたが、ついに本性を現したな! 正也の世界一可愛い顔に傷を付けようとするとは! 今日という今日は絶対に許さない!」
「いやオレは決してそんなっ……これにはわけがっ」
「そ、そうだ康介! 周一は悪くないぞ!」
 チョコの勝負も重要だが、凶暴化してしまった康介の意味不明の怒りを静めようとおれも必死になる。
「かばってもダメだ! こいつが二度と正也に近付けないようにしてやる!」
「ま、待て待て!」
 とっさにおれは康介の背中に飛びついて、必死に康介のバイオレンスをやめさせようと頑張る。
「ふん、今さら俺の身体に密着して全身を興奮させようったってそうはいかないからな! たとえ全身がボッキして爆発しようとも、俺は正也に危害を加えようとしたこいつを絶対に許さない!」
「なにわけの分からないことを叫んでるんだ! 頼むから静まってくれ!」
「ひぃいいい……!」
 恐怖に怯えまくっている周一を早く助けてやりたいのに、いくらおれがその腕を引き離そうと頑張っても、周一は悪くないと叫んでも、激おこぷんぷん丸の康介は怒りを静めてくれない。
 ああ、おれたち、これからどうなっちゃうんだろう……。

(了)




こんにちは、作者の牛野若丸です。

僕の発案した2015年2月のお題は、「氷」「咳」「バレンタイン」でした。
『激おこバレンタイン』、いかがだったでしょうか~?

今回は流行語(?)にチャレンジしました♪
「激おこぷんぷん丸」、もうブームが終わっていたら申し訳ないですが……w

BL小説を読んでいると、たまに聞き慣れない言葉に出会うことがあります。
「おたんこなす」や「かまととぶる」は、最初意味が分からなくてググりました(笑)。
まあこの2つの言葉はちゃんとした一般語であって、流行語ではないかも知れませんけど、今の時代に失われつつある表現なのは確かだと思うんです。
そういう言葉に小説の中で出会えるのって、楽しいことですよね。

僕は「激おこぷんぷん丸」という言葉を初めて聞いた時、「なんて最高の言い回しなんだ!」と感動しましたw
「あの人は激怒している」、「あの人はキレている」と言うよりも、「あの人は激おこぷんぷん丸になっている」と言った方が場が和みませんか~?
ということで、この素敵な言葉を次世代に残したいという壮大な思いを込めて(笑)、今回はあえて「激おこぷんぷん丸」という言葉を使わせて頂きました♪

さて、牛野若丸、次回こそはイメチェンするつもりです!
今作は今までのおバカ路線のまとめ(?)ということで、過去最高におバカな主人公にさせて頂きましたw
ご感想を頂けるとうれしいです♪

それではまた~。
これからもよろしくです!

牛野若丸

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