蕾を描こう(2015年3月お題SS)★お色気注意★

BL♂UNION

大学生先輩後輩もの。
牛野若丸発案のお題SS(2015年3月)。
お題は「蕾」「卵」「送る」。
約3300字。




 今日の講義が終わった彰は、いつものお屋敷の門前にやって来た。
 インターフォンを鳴らしてみる。
『やあ、彰くんだね。入って』
 松島先輩の穏やかな低音だ。
 ロックの解除される音がした。彰は門をそっと開けて、玄関までの長い道のりを進んでいく。
 先輩の部屋のある一階のベランダの前に、見慣れた桜の木がある。蕾が大きく膨らんでいるから、そろそろ開花も近いだろう。
 さわやかな温かい風を背中に感じる。今度は玄関のインターフォンを鳴らそうとしたら、ドアが向こうから開いた。
「ふふふ、玄関の鍵は開けてあるって、いつも言っているだろう?」
 小柄な彰よりずっと背の高い松島先輩が、眼鏡の縁を人差し指で押さえながら微笑んでいる。
「待っていたよ。相変わらず可愛いね」
「遅くなってすみません」
「今にも弾けてしまいそうで、勃ち上がるのを抑えるのに僕は必死だったんだ」
 先輩のちょっと文学的な言葉の意味はよく分からないが、彰はうれしそうな先輩の顔を見るのが好きだった。
 そのまま先輩の広い部屋に通される。
 カーテンが閉まっていて外の桜は見えない。部屋の中はいつも通りちょっと薄暗い。
 何も描かれていない大きなキャンバスが用意されている。向かい合わせになるように、彰のための椅子が置いてあった。
 松島先輩は高校時代、彰と同じ美術部だった。彰は単にお絵描き感覚の軽い気持ちで入部しただけだったが、才能溢れる先輩の繊細な絵を見るのが好きで、随分と先輩に可愛がってもらったものだ。
 先輩は美大の絵画専攻に進んだから、凡人の彰とは疎遠になるかと思われたが、彰が大学生になると先輩は頻繁に連絡してくるようになった。ある頼みとともに。
「さあ、始めようか」
「はい」
 彰は何のためらいもなくトレーナーを脱ぎ捨てる。Tシャツも脱ぎ捨てる。ベルトを緩めてトランクスごとジーンズを一気に下ろす。
 全裸になった彰はキャンバスと向かい合わせに置かれた椅子に座った。男同士だから遠慮は要らない。
「ああ、まだ心の準備が……」
 キャンバスの前に座った先輩が眼鏡ごと自分の顔を両手で覆うのはいつものことだ。先輩の後ろにはカーテンの閉まったガラス戸が見える。
 そうっと自分の手の平をどけ終えると、先輩は彰の裸体を熱っぽく見つめた。
「本当にオレなんかでいいんですか?」
 もう何度も聞いた質問だ。
 大学の入学式の日。先輩から突然電話がかかってきた。「男子大学生の裸を描きたいからモデルになってくれ」という驚きの頼みが、今日でもう十三回目になる。
「ああ、君がいい。その萎びたままの可愛い中芯、垂れ下がったまま何の熱も伴っていない双球、この僕に何の欲望も感じていない身体の証たち。それを無防備に惜しげもなく見せつけるなんて、なんて君は残酷な子なんだろう」
 いつも通りうっとりと彰の腰付近を眺めながら、先輩はよく意味の分からない言葉をぶつぶつとつぶやいている。
「オレはこうやって座っているだけでいいんですか?」
「ああ、そうやって男らしく股を広げて座る君が大好きだよ」
 どうやらこれで大丈夫ということらしい。
 先輩は何かに取り憑かれたかのように、圧倒的なスピードでスケッチを進めていく。もう随分と見慣れてしまった光景だ。
「もう何度もオレの裸をスケッチしてますけど」
 モデルの身体が貧弱なせいで、何度描き上げてもボツになってしまっているのではないかと心配になって言ったのだが。
「まさか彰くん、やめようなんて言うんじゃないだろうね。謝礼はお望みの金額を何百万円でも払うと言っているだろう? 君は僕にとって、プロのモデルなんだから」
「い、いえそんなっ」
 彰は慌てた。
 大金持ちの御曹司である先輩の「謝礼」なんかを受け取ることになったら、どんな法外な金額が降ってくるか分からない。たとえどんなにお得であっても、優しい先輩との間にそんなビジネスの関係は持ちたくなかった。
「謝礼なんて要りませんからっ。オレは先輩のお役に立てるんなら、何度だって脱ぎますよ。画家の卵の松島先輩を、オレは本当に尊敬してるんです」
「ああ、僕のためにタダで脱いでくれるだなんて、そんな倒錯的な台詞に縛られたら、君を絶頂に導くことさえままならないじゃないか」
 ここのところ、高校時代以上に先輩の言動は浮世離れし始めている気がする。やはり天才芸術家は少しずつ、一般人のレールから外れていってしまうのだろうか。
「今までのオレのスケッチって、全部捨てちゃってるんですか?」
 下書き段階なら何度描き直しても大丈夫だろうが、先輩はどうも毎回彰の裸体絵を最後まで仕上げた上でボツにしているらしいのだ。その作品たちを見せてもらったことは一度もないが。
 いくら裕福でも、資源の無駄遣いをさせている気がしてなんだか申し訳なかった。モデルのルックスに問題があるからにちがいない。
「いやいや、捨てるわけがないだろう。必要とあらば、いつの日か彰くんの家に送り届けさせてもらうけどね。君の裸体絵は全て大切に保存させてもらっているよ。だけど、もっともっと僕は高みに昇りたいんだ」
「高み?」
「ああ、絶頂の極みに。オカズはどんどん激しくなっていくものだ。AVだって、そんなものだろう?」
 食べ物やらAV機器やら、先輩の話はあちこちに飛んでしまって訳が分からない。今日の先輩はいつも以上に鼻息が荒い気がする。
「――今日は、ちょっと別の部分を描かせてもらおうかな」
 松島先輩は熱っぽい顔でこちらを見つめている。そろそろ違うものが描きたくなったのだろう。
「立ってくれ」
「はい」
 彰は元気よく立ち上がって見せた。
「ああ、僕にどんなに見られても君は勃ち上がらないんだね」
「オレ、立ってますけど?」
「いや、分からないならいい。とにかく僕は彰くんの蕾が描きたいんだ」
「つぼみ?」
 自分をじっと見つめてくる先輩のことが、彰にはよく分からなかった。
 蕾ならカーテンの向こうにある。彰は全裸のまま、カーテンの前まで歩みを進めた。
「彰くん?」
「先輩、桜の蕾を描くことにしたんですね。さっき外から見たけどきれいでしたよ。まだ花は咲いていませんけど」
 そう言いながら勢いよくカーテンを開ける。高い塀があるので外から見られる心配はない。
「ほら」
 彰は桜の木を指差してみせる。
「この桜の木、先輩がオレのために植えさせてくれたんですよね。庭に桜の木を植えるのって、風水的にはあんまり良くないらしいのに。オレが花見に行ったことがないって言ったら、先輩が自分の家で一緒に見ようって言ってくれて。高二のオレへの誕生日プレゼントでしたよね」
 ある日突然、先輩の家に桜が出現したのだ。まるで、秀吉が醍醐の花見のためにあちこちの桜を引っこ抜いてきて花道を作ったという逸話のように。あの時はまるで夢みたいで、本当にうれしかった。
「あの蕾が開いて花が咲いたら、またオレとお花見しましょうか」
 明るい声で言いながら振り返ろうとして。
「ぎゃっ」
 松島先輩が腹ばいになって彰の足下にいることに驚愕する。
「な、何やってるんですかっ」
 先輩の手にはスケッチノートと鉛筆が握られていた。キャンバスが置き去りになっている。
「ああ、僕は彰くんの蕾が開くのをずっと待っている。そのまま、その体勢でいてくれ。僕はそれをこの目に焼き付けながら、隅々までスケッチしたいんだ」
「いや、それは困りますっ」
 いくら外から見えないとは言っても、この豪邸の庭の手入れに誰かがやって来ないとも限らないのだ。局部を外に向けたまま、全裸でいつまでも立たされ続けるのは困る。
「っていうか先輩、桜の蕾はそんな腹ばいになっちゃったら見えないじゃないですか。今オレのいる場所に来て下さいよ」
「いや、このままでいい。もう僕は今にも爆発しそうなんだ。君のいつまでも萎びたままの中芯と、僕の硬くなったものとは違う。僕は君の前も後ろも、隅々まで描くんだ。さあ、蕾を描かせてくれ」
「だから、そんなところじゃ蕾が見えないって……」
「ああ、無邪気な君の言葉がたまらない!」
 どんどん興奮して熱っぽくわめき出す松島先輩に、彰は何と言ったらいいのか分からなかった。

(了)




こんにちは、作者の牛野若丸です。

僕の発案した2015年3月のお題は、「蕾」「卵」「送る」でした。
『蕾を描こう』、いかがだったでしょうか~?

約1年半ぶりぐらいの、ちゃんとした三人称視点の作品になりました。
たまにはこういう客観的な視点で書くのも楽しいですね♪

お笑い的に言うと、ボケ×ボケといった感じでしょうか?w
またよかったらご感想を頂けるとうれしいです!

牛野若丸

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